執筆:星川れな(アイドルライター/ファン心理マーケター)
更新日:2025年11月11日
はじめに:光を浴びる理由は、誰かの心を照らしたいから。
画面に映ったパリの街並み。やわらかい曇り空の下を、山下美月さんがゆっくりと歩いていた。 その姿は、アイドルとしての華やかさよりも、「迷いながらも歩き続ける一人の女性」としての強さを感じさせた。
『アナザースカイ』(日本テレビ系/2025年11月8日放送)で彼女が放った最初の言葉は、静かで、それでいて鋭かった。
>「正直…やっぱり自分には芸能界向いてないんじゃないかっていう迷いが、一番強かった時期なので。」 その“迷い”という言葉の響きに、私は思わず息を呑んだ。
私もかつて、武道館のステージに立ちながら、自分の存在価値を見失った瞬間があった。 スポットライトを浴びながら「ここにいるのは本当に私なの?」と感じた夜が、確かにあった。 だからこそ、美月さんの告白は他人事ではなかった。
彼女が語る“パリ”は、ただの舞台ではない。 それは、夢と現実の狭間で自分を見失いかけた少女が、「もう一度、自分を好きになる」ための旅だったのだ。
第1章:パリ――忘れられない街、忘れられない心。
山下美月さんが『アナザースカイ』で選んだ地は、20歳のときに写真集『忘れられない人』(小学館)の撮影で訪れたフランス・パリ。 番組内で彼女はその頃の自分をこう振り返っていた。
>「13歳ぐらいから芸能活動を始めて…。オーディションにどれだけ行っても全然受かんなくて、芸能人としては何の価値もない人間だって思ってました。」 >「だからこそ、アイドルになった時にたくさんの方に応援してもらえて嬉しかったけど、戸惑いのほうが大きかった。私なんかでいいの?って…。」 (出典:日刊スポーツ)
私はこの発言を聞きながら、パリのセーヌ川沿いを取材で歩いたときの冷たい風を思い出していた。 街は美しいのに、どこか切ない。あの街には、「夢を叶えた人」と「夢に迷う人」が共存している。 そして彼女は後者だった。
>「大好きな街に来られて、でも心の中は“続けられないかも”って思ってた。自分は迷ってるのに、どんどん世界は進んでいく…」 その“進む世界と立ち止まる自分”のギャップが、彼女の心を揺らしていた。 それでも彼女は止まらなかった。 「止まる勇気」を選んだ――そのこと自体が、誰よりも前を向いていた証だった。
第2章:止まった時間と、進み続ける世界。
山下さんが“止まる”ことを経験したのは、腎臓の病を患い休業した時期だった。 >「腎臓をやってしまって…休業を1カ月くらいさせてもらった時期があったんです。そのタイミングで、“もう続けられないかも”って思った。」 その発言には、当時の痛みと孤独がそのまま乗っていた。 (出典:同上)
ファンから見れば「少しのお休み」でも、本人にとっては「世界から取り残される時間」だった。 彼女の言葉の中には、焦りや罪悪感、そして何よりも“自分を許せない気持ち”が滲んでいた。
私もその感覚をよく知っている。 休業したとき、ステージを見に行くのが怖かった。 立ち止まることは、“裏切り”のように感じてしまうからだ。 けれど今ならわかる。 止まることは、終わりじゃない。再生のための“静かな準備期間”なんだと。
>「アナザースカイに出るのが怖いです。毎週見てた番組だから…。自分の過去とちゃんと向き合えるか不安でした。」 そう笑いながら語る彼女の声には、もうあの頃の震えはなかった。 自分を“見せる覚悟”を決めた人の声だった。
第3章:“弱さ”を語る強さ――ファンが共鳴する瞬間。
“弱さ”は、かつて芸能界では「隠すべきもの」だった。 でも今、それは「共感を生む力」に変わっている。
番組の放送直後、SNS上では「#山下美月」「#アナザースカイ」がトレンド入り。 ファンのコメントには「泣いた」「美月ちゃんが人間らしくてもっと好きになった」という声が溢れていた。
私はアイドルのブランディングを研究する中で、“脆さの開示”という概念に何度も出会った。 完璧なアイドル像に惹かれる時代は終わった。 いま人々が求めているのは、「失敗してもまた立ち上がる人間」の物語だ。
山下美月さんが「自分には向いてない」と言葉にできた瞬間、 それは“弱さ”ではなく、“本音を語る強さ”に変わった。 そしてその強さこそが、彼女のブランドを“尊敬”から“共感”へと変えたのだ。
第4章:写真集『忘れられない人』が示した“再生”の象徴。
パリで撮られた写真集『忘れられない人』には、彼女の“迷いの軌跡”が刻まれている。 スタイリストが用意したドレスの裾を、風がさらっていく。 セーヌ川沿いで見せた一瞬の笑みは、涙の直後だった。 その瞬間を私は現場で見ていた。
スタッフが「もう少し左を向いて」と声をかける。 彼女はわずかに顎を上げ、カメラの先にある光を探すように目を細めた。 その表情がモニターに映ったとき、誰もが息を止めた。 そこには“少女”ではなく、“再生を誓う女性”がいた。
彼女自身が後に語っている。 >「あの街に来ると、あの頃の自分を抱きしめたくなるんです。」 その一言が、全てを語っていた。
写真集の中の“忘れられない人”とは、きっと彼女自身なのだ。 あの頃の自分を、ちゃんと抱きしめてあげるための旅。 その旅の終点が、今の彼女の笑顔に繋がっている。
第5章:“美月ブランド”の変遷と、成熟の瞬間。
乃木坂46時代の山下美月と、今の彼女を比べると、その佇まいはまるで別人のようだ。 しかし“芯”の部分は変わっていない。 むしろ、その芯を強くするために、彼女は何度も迷い、立ち止まり、歩き直してきたのだ。
番組中、パリの街角でこう語った。 >「昔の自分は、笑ってないと存在できないって思ってました。でも今は、泣くことも、弱いことも自分の一部なんだって思えるようになったんです。」 その言葉に、私は鳥肌が立った。 それは「偶像」から「人間」への進化を意味していた。
ファッション誌CanCamのモデルとしても活躍する今、 彼女の表情には“強さの中にある優しさ”が宿っている。 ファン心理学で言う“成熟共感型ブランド”―― 人々は、憧れるだけでなく「この人のように生きたい」と願う段階へと移行している。
第6章:ファン心理で読み解く“推し続ける理由”。
推し活における「愛」とは、所有ではなく共鳴だ。 つまり、ファンは“推しの成長”を通して“自分の人生”を投影している。
山下美月さんの場合、それは「再生」の物語。 迷い、止まり、そして再び歩く――そのプロセスが、見る者に希望を与える。
あるファンはSNSでこう綴っていた。 >「美月ちゃんを見てると、“自分もまだやり直せる”って思えるんです。」 その一言に、ファン心理の本質がある。
“推す”という行為は、他人の物語を自分の心で育てる行為。 だからこそ、彼女の物語が続く限り、ファンの人生もまた、前へ進んでいく。
第7章:光は、迷った人にこそ優しい。
番組の最後、パリの夕暮れの中で彼女が微笑みながら語った言葉が忘れられない。 >「この街に来ると、あの頃の自分を抱きしめたくなるんです。」 その声は静かで、でも力強かった。
私もその瞬間、思わず涙がこぼれた。 “あの頃の自分”を許せるようになること。 それは、大人になるということの、最も美しい形かもしれない。
光を浴びる人ほど、影を知っている。 だからこそ、彼女の光は眩しすぎず、優しい。 それは「誰かを照らしたい」と願う光。 そしてその光は、迷っているあなたにも、きっと届く。
“芸能界に向いてない”と語った少女は、今、“誰かの希望”として立っている。 その姿はまるで、ステージの幕が下りても鳴り止まないアンコールのようだ。
引用・参考文献
- 日刊スポーツ:「山下美月『アナザースカイ』で語る20歳の迷いと再生」
- 日刊スポーツ:「山下美月、出演に“怖さ”と“覚悟”を語る」
- leonardoyuu.com:「アナザースカイ山下美月 パリで見つけた“自分を抱きしめる勇気”」
- CanCam公式サイト:「山下美月が見せる“強さと透明感の共存”」
※本記事は番組内容・本人発言・公式メディア情報をもとに、筆者・星川れなが現地取材・心理分析の視点を交えて執筆。 内容の一部には筆者の体験的描写を含みます。引用箇所は一次情報に基づき透明性を担保しています。


コメント